こんにちは。山内健輔です。
今回紹介する小説は、派遣切りにあって生活に苦しむ若者が主人公の物語。
「ワーキングプア」とか「ネットカフェ難民」、「派遣切り」「闇バイト」「振込詐欺」など現代社会で大きな問題になっている現実を背景にしたストーリーです。
2011年9月(徳間書店) 2015年2月(講談社文庫)
タイトルの通り、主人公には次々と「不運」が訪れます。
確かに主人公には同情するぐらいハードな展開ですが、その行動には共感できないなぁ~と思っていたら!
怒涛の展開で緊迫感とミステリーが混ざった物語。
いつの間にかストーリーに引き込まれている自分がいました。
一気に読める作品なので、次に読む本に困ったら一度読んでみてほしい作品です。
読み慣れた人なら読了時間4~5時間です。
ネタバレなしで紹介していきます。
『ハードラック』薬丸岳。社会的弱者をテーマにしたミステリー小説。
記事執筆時点の情報です。記事ではできるだけ正確な情報を公開することを心がけていますが、金額、内容、出版社、その他の情報が変更されている場合があります。
確認してから購入することをおすすめします。
おすすめの人
◯自分は運が悪いと思っている人
◯生き方が「下手」と思う人
◯薬丸岳ファン
◯時間つぶしの本を探している人
◯現代社会の問題に興味がある
派遣切りによって生活困窮者に陥った若者が闇バイトで一攫千金を狙う。
仲間と思っていた人物に嵌められた主人公が真相を追っていくストーリーです。
あらすじ
二五歳にもなって日雇い仕事すら失い、「大きなことをするため」闇の掲示板で四人の仲間を募った仁は、軽井沢で起きた放火殺人の汚名を着せられてしまう。なぜ俺を嵌めた? 信じられるのは誰なんだ? 手探りで真犯人を探す仁、闇世界の住人たち、追う刑事。物語は二転三転し、慟哭の真相へと向かっていく。
現代社会の暗部に焦点を当てている部分があるので、好き嫌いは分かれますが、「ここまでハードラックか~」という視点で読んでいくと話に引き込まれていきます。
主人公は25歳。
お人好しで、生き方が下手な若者です。
主人公の行動には疑問が残ること多数ですが、だんだん強くたくましくなっていくのをみていると少し応援したい気持ちにさせられます。
ハズレなしといわれている薬丸岳作品のなかでも、身近にありえなくもない話です。
読み出すと次の展開が見てみたくてついつい時間を忘れてしまいますよ。
推理しないで読みたいミステリー・サスペンス
『ハードラック』の特徴は、
- 時代背景とキャラクター設定がうまい
- 場面展開が速い
- 読みやすい文章
- ミステリーというよりサスペンス要素強め
- テンポが悪くない
- テーマが重いわりにスラスラ読める
- 若者の貧困がテーマ
- 緊迫感あり
作者が問題提起するのは、現代社会でも問題になっている格差社会の現実。
そこにネットカフェ難民や派遣切り、闇バイト、振り込め詐欺などをうまく絡めて、搾取する側とされる側の理不尽な壁を表現しています。
テーマはヘビー(重め)ですが、ライトな語り口(若者目線)なので、スラスラ読み進めることができました。
場面展開も速く、テンポよく読めます。
ミステリーっぽくなっているものの、むしろ真相に迫っていくスリリングな緊迫感を楽しむサスペンス要素が強く感じられました。
ミステリーについては、レビューをみても、「真犯人は分かりやすい」との声が多く、実際私も見当はつけやすかったです。
むしろ、推理しないでどんどん読み進めていきたい小説といえます。
真相がドラマチックで、なんともいえない余韻を残します。
内容はちょっと重めですが、先の展開が気になってページをめくってしまうことでしょう。
みどころは「若者の貧困」の現実
主人公がお人好し | ★★★★★ |
社会問題に切り込む | ★★★★★ |
ライトな文章 | ★★★★★ |
この作品のみどころは、「若者の貧困」とそれを食い物にする「闇社会」(裏社会)。
搾取する側とされる側の構図がどのステージにもあって、ずる賢い者と生真面目で損をする者とに分かれる現実を描いています。
ワーキングプアと呼ばれる若者がそこから抜け出そうと必死にもがくほど、ずる賢い者に獲物にされていく負の連鎖。
さらに主人公のように生真面目でお人好しほど騙されやすい世の中に疑問を投げかけているように感じました。
格差社会をテーマに、生活を立て直すのが難しい問題と、抜け出せなくなる闇社会でトカゲの尻尾にされる経済的弱者。
よく外国の「スラム街」が問題にされますが、貧困と犯罪の関係は現代日本にも存在するかもしれないと認識させられます。
誰を信じればいいのかわからなくなる
『ハードラック』を読んだ感想。
主人公は確かに「不運」だけど、その行動に共感はしたくない気持ちになりました。
ただし、犯罪を受け入れられないのは当たり前ですが、そこに至る背景には考えさせられました。
社会からこぼれ落ちてしまう危険は誰にでもあって、踏みとどまる勇気が必要なのです。
作品の冒頭部分(プロローグ)はとてつもない描写から始まります。
すべてのハードラックを主人公に背負わせた作者・薬丸岳さん「ひどい~」と思いましたが、本当にハードラックなのは……。
ネタバレになるのでこれ以上は書くのはやめておきます。
ですが、薬丸作品は、ぐちゃぐちゃな展開でもどこか愛を感じる作風が特徴です。
最初はどの登場人物にも共感できなくて、「ん~」と思っていましたが、いつの間にか物語に引き込まれてしまいました。
次々と周囲の人物に嵌められていく主人公をみていると人を信じるのが怖くなります。
もしかしたら作者は、簡単に人のことを信用してはいけないよ~というメッセージだったのかもしれない?!……(笑)
最後に。
最後まで読んでみるとこの作品のタイトル「ハードラック」なのは誰かがわかります。
この作品にピッタリの題名だってことがわかります。
やっぱりハズレなしといわれる作家さんだけあって、ネーミングセンスがすばらしいですね。
まだ薬丸作品は3冊しか読んだことがないので、他の小説も読んでみたくなりました。
『ハードラック』のテーマは現代の日本では重めのテーマですが、深く考えすぎずエンターテイメントとして楽しむこともできる作品です。
軽い読みやすい文章で、一気読みできるので暇つぶしに本を探している人にもおすすめ作品です。