富樫倫太郎の小説 『土方歳三』は丁寧に生涯を描いた作品。

こんにちは。山内健輔です。

新選組の中でトップクラスの人気を誇るのが「土方歳三」。

数ある新選組小説の中でも主人公として取り上げられる頻度は最も多いといえるかもしれませんね。

私が好きな作家の富樫倫太郎さんは、現代小説も書きながら歴史小説も多く出版していて、どれもおもしろいんです!

今回はそんな作家が描いた土方歳三の物語、

『土方歳三 上中下』 富樫倫太郎(角川文庫) 2015年3月

を紹介していきます。

富樫倫太郎の小説『土方歳三』は丁寧に生涯を描いた作品。

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おすすめの人

こんな人におすすめ
土方歳三のファン
◯幕末小説が読みたい!
◯かっこいいヒーロー小説を読みたい!
◯冨樫倫太郎の小説が好き
今回紹介する『土方歳三』は、タイトル通り土方歳三の生涯を描いた物語。
土方歳三の小説に多いのは、「新選組」を中心にしたものが多いのですが、富樫倫太郎版では人間「土方歳三」が焦点。
バラガキ

鬼の副長

常勝将軍
※バラガキ
司馬遼太郎『燃えよ剣』で使われている土方歳三の少年時代のあだ名。
茨のトゲが語源で乱暴者やイタズラ小僧のような意味で使われた。
土方の生涯は多摩~江戸で過ごした時代、京都での新選組時代、戊辰戦争以降といった3つの時期があります。
この本では、その3つの時期にバランスよく焦点を当てて物語が進行。
土方歳三が主人公の小説といえば司馬遼太郎の『燃えよ剣』を思い浮かべる人が多いですね。
この小説では作者が意識したのかどうかは分かりませんが、『燃えよ剣』をもっと読みやすくした感じ
もちろん全然違う小説なのでそれぞれで楽しめるので、読み比べてみるのもおもしろいです。
とにかく土方歳三がカッコよく描かれています。
だれもが知っている土方像でありながら、作者独自のエピソードを加えられた主人公には、男性も女性も惹かれることでしょう。

『土方歳三』はどんな本?

 

読みやすい ★★★★★
女性にもおすすめ ★★★★★
主人公が万能 ★★★★★

 

文体も現代文で書かれており、会話が多いので読みやすいです。

どうしても幕末の歴史小説では登場人物が多くなってしまいがちで、詳しくない人は混乱しやすいのですが、この本では登場人物も絞られていて、全員が特徴的な性格なので人間関係も理解しやすいです。

凄惨な場面や事件が多く暗い印象になりがちな幕末モノですが、全体的に明るくさわやかな印象で、幕末小説としては新鮮に感じます。

時代背景の説明も簡潔で展開が分かりやすいので、主人公の物語に集中して読みやすいのも特徴です。

恋愛や友情もスパイスとしていい味をだしていて、戦闘シーンも淡白に描写されるので女性も違和感なく楽しめる作品ですよ。
読み進めていると作者の土方歳三への愛情が感じられます。

みどころは?

作品のみどころは、やっぱり土方歳三の生き様。
クールで鬼の副長といわれながらも、完全に冷徹になりきれない姿が印象的でした。

試衛館時代からつるんでいた伊庭八郎や沖田総司との絆近藤勇との関係不器用な恋愛など、決してドライ過ぎない優しさや愛情を感じられる「漢」として描かれています。

他の小説ではなかなか見られない土方歳三像です。

他にも、

  • 沖田とのやりとり
  • 伊庭八郎、人見勝太郎との信頼関係
  • 他の登場人物も個性的
  • 敵役の憎らしさ
  • 箱館戦争の戦況

本のタイトルが「土方歳三」だけあって、ほとんど全部が土方歳三の視点です。
新選組時代が主流の小説が多い中で、上京前と鳥羽伏見の戦い以降も詳しく描いているので、新鮮さを感じます。

あまり土方歳三を知らなかった人や、いきなり司馬遼太郎の『燃えよ剣』を読むのをためらっている人にとっては、読みやすくて時代の流れも分かりやすいのでおすすめです。

土方の生涯が丁寧に書かれた小説

新選組関連の小説は、作家によってキャラがぜんぜん違うことが多いのが特徴です。
でも、土方歳三だけはほとんどの作家さんはクールで冷徹に描いています。

富樫倫太郎の『土方歳三』もみんなが知っているクールな歳三ではあるのですが、ひと味違った優しさと侠気(おとこぎ)のある性格を読むことができるんです。

また、他の新選組小説ではあまり詳しく書かれない箱館戦争の様子も結構なボリュームで書かれているので、興味深く読み進められました。

上京前の江戸ー多摩にいるときや京都での新選組時代の歳三も魅力的なのですが、この蝦夷に移ってからの土方歳三はまた一段とかっこいいんです。

箱館での幕府軍では、近藤勇が榎本に、沖田総司が人見勝太郎や伊庭八郎に変わって信頼関係を築いていく姿があります。

富樫倫太郎さんの小説の世界では、登場人物たちのキャラ設定がとくにうまく、魅力的な人物と憎らしい人物とにはっきりしているので、読者も迷わずに感情移入しやすかった印象です。

この本では、新選組結成前と箱館時代がとくに丁寧に書かれているように感じます。
新選組ファンには少し物足りないという声も聞かれますが、土方ファンにはたまらない小説でした。

最後に。

富樫倫太郎はこの作品の前に「箱館三部作」といわれる作品も書いています。
土方歳三の外伝的な作品で、全部に土方歳三や周囲の人物たちが登場。

私は全部読んでいますが、どれもおもしろい!

作者が箱館出身だけあって、臨場感があります。

出版されたのはこの箱館三部作が先ですが、『土方歳三』を読んでから『箱館三部作』を読むと全部が連動していておもしろく読めますよ。

ぜひ一緒に読んでみてくださいね。

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