野生カブトムシが小さい?そんな疑問を解決する本『カブトムシ山に帰る』

こんにちは。山内健輔です。

あなたはカブトムシを飼育した経験はありますか?

カブトムシを育てていると、多少の違いはあるものの、だいたい同じような大きさに育ちます。

でも、カブトムシを採集に行くと野生のカブトムシは、大きいものや小さいもの、色も微妙に違っていて不思議に思ったことがあります。

カブトムシなどの甲虫は成虫になると大きくなることができません。
幼虫時代の大きさで成虫の大きさも決まるのです。

昆虫カメラマンの山口進さんはクワガタを撮影する目的で山に入ったところ、思わぬところにカブトムシの幼虫がいるのを見つけました。
普通は腐葉土に住んでいるカブトムシの幼虫が「朽木(くちき)の中」で発見されたのです。

彼は、もうひとつ疑問をもっていたことがありました。

野生のカブトムシが小さくなっている?!

山梨県の里山に移住した昆虫カメラマンがそんなカブトムシの疑問に迫っていく本があります。

山口進 著『カブトムシ山に帰る』
(汐文社)2013年8月

全部で143ページの読みやすい本です。

カブトムシと現代の里山との関係を知るきっかけになりました。

野生カブトムシが小さい?そんな疑問を解決する本『カブトムシ山に帰る

 

児童向け(高学年以上) ★★★★★
分かりやすい ★★★★★
興味深い ★★★★★
大人も楽しい ★★★★★

 

 

 

SDGsに興味のある人に最適

こんな人におすすめ
SDGsに興味がある
カブトムシが好き
里山について知りたい
田舎暮らしをしてみたい
生き物と人間の共生について考えてみたい
長すぎず、短すぎずちょうどいい長さ(143ページ)の本です。
児童向けに書かれていて、子どもが興味のある分野から現代の自然環境を顧みることができます。
カブトムシの本を読んでいるうちに、人間の生活雑木林との関わり自然環境について学べる本なんです。
子ども向けの本ですが、むしろ私たち大人が勉強になる、興味を持つ話。
親子で読んでほしい本ですね。
「小さいカブトムシが増えてきたのはなぜ?」という疑問を通して、仮説をたてて謎を解明していく論理的思考も一緒に学んでいくことができます。
持続可能な開発、SDGs、サステナブル、代替燃料・・・
私たち大人もこれからの地球を維持していくためのヒントを得ることができますよ!

人間と里山、カブトムシの関係を解説した本

著者の山口進さんは「昆虫植物写真家」。
私たちおじさん世代には、『ジャポニカ学習帳』表紙の写真を撮っている人といったほうが分かるかもしれませんね。

山口進 プロフィール
1948年、三重県生まれ。山梨県在住。
ジャポニカ学習帳の表紙の写真を長きにわたり撮影している。
取材テーマは「共生」。花と昆虫の共進化や花生態学など。著書多数。
NHKの自然科学番組「ダーウィンがきた!~生きもの新伝説~」などの企画・撮影・出演、山梨大学教育人間科学部非常勤講師も勤める。

ホームページ『山口進の気まぐれ撮影日誌』より引用

残念ながら2022年12月に亡くなっています。
私もこの本を最近読んでみて知りました。

『カブトムシ山に帰る』は、著者の山口進さんが山梨県の日野春という場所(オオクワガタの産地で有名)に移住して、里山について感じたことを中心に書かれています。

詳しい内容は本を読んでいただきたいのですが、簡単に紹介すると

  • 人の生活がカブトムシを大きくした
  • 人間がつくった里山が生物多様性を創出した面もある
  • 樹液がでるしくみ
  • 人里━里山(雑木林)━奥山(手つかずの自然)の関係
  • 里山が人の手から離れたことで起きた変化

里山とは、自然の山の資源を人間が利用しやすいように加工(手入れ)した場所

里山は、私たちが暮らしている人里と自然の緩衝地帯となっているだけでなく、人間とその他の生き物が資源を分け合える場所にもなっていることが学べます。

読みやすくて分かりやすいのが特徴

文章は難しい言葉をあまり使わずに書かれているので、エッセイのような感覚で読みやすいです。

最初から読んでいくと、疑問から仮説、新しい疑問を踏まえて結論にいたった過程もよくわかるので、論理的でわかりやすく読み進められます。

内容もただ感情に任せて自然保護を訴えるわけではなく、現在の状況を悲観したり、批判したりするのでもありません。
文章構成も抽象的すぎず、感傷的すぎないので知的好奇心を満たしながらも勉強になるんです。

ただし児童向けとはいっても、低学年の子どもだと少し難しいかもしれません。
小学校の高学年ぐらいになると、疑問を見つけてその答えを探していく過程が学びになるはずです。

とくに本の内容が「カブトムシの小型化の謎」っていう子どもにとっては興味深いものなので、とっつきやすさもありますね。

子どもにとっておもしろそうなところは、

人間の生活と関係があったカブトムシの大きさ

ではないでしょうか。

最後まで読むと本のタイトルに納得です。
子どもだけで読むのはもったいない、大人も一緒に読んでほしい本です。

本の感想;自然と里山、人の生活を見直すきっかけに。

『カブトムシ山に帰る』は単純に「自然を保護しよう」というだけの本ではありません。

人が暮らす資源を得るための自然が「里山」。
手つかずの自然「奥山」の生き物たちと繋がれる場所。
人が雑木林に手を加えなくなったことで奥山に戻りつつある現在。

昆虫カメラマンで自然ジャーナリストの山口進さんが伝えたかったのは、「地球環境の変化を身近でも感じられるよ」ってことかなと思いました。

ただ単に小さいカブトムシが増えたから自然が壊された=悪いってわけでもなさそうです。
深く深く考えさせられる本でした。

また、今度はカブトムシだけに焦点を当てるのではなく、他の生き物たちの暮らしにも興味をもつことができました。

最後に。

雑木林は時おり気を間引く「間伐」(かんばつ)を行うことで、新しい植物にも日が当たるようにすることで手入れをしています。

雑木林の樹木を薪や堆肥にすることで人間の生活を助けてもきました。
なかには、

「木を切る」「焼き畑」をするということだけで生き物の居場所を奪っている!

と知らずに非難する人もいます。

ですが、それらは人間のためだけではなく、生物の多様性を守ることにもつながっていることだったんですね。

現代社会では、「サステナブル」とか「SDGs」とか「持続可能な開発」といった言葉が根付いてきました。

里山は太陽のエネルギーで樹木を育て、人はそのエネルギーを利用することで保全されていました。

・・・簡単なことではないのかもしれませんが、石油やガスといった天然資源の代替に活用できる日がくるかもしれません。
幸い、雑木林は今も問題になっている二酸化炭素も吸収してくれそうです。

もしかしたら、里山が「繰り返し利用できる資源」として見直される日がくるかもしれませんね。
そうすればまた大きいカブトムシが飛び交う光景がみられることでしょう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

山口進氏が書いたオオクワガタについての本も一緒に読みたい!
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