こんにちは。山内健輔です。
買ったはいいけど、なんとなく読む気になれなくて部屋に積んである本ありませんか?
巷では「積んである」を文字って、「積ん読」(つんどく)と呼ばれています。
実は私もありました。
その中のひとつが今回紹介する『漂流』吉村昭著。
江戸時代の話で、40年以上も前に出版されている小説。
表紙もモノクロの孤島で少し古さを想像させます。
そんな理由でとっつきにくく、他の本を優先してしまっていました。
最近、無人島小説をいくつか読み進めていて、「そういえば~」と思って読み始めたこの本。
めっちゃおもしろいじゃん!
ってことで、今回は江戸時代に本当にあった話。
船乗りが海流に流されて、伊豆諸島のいちばん南にある「鳥島」(とりしま)で12年間生存した実話を小説化した本をネタバレなしで紹介します。
1980年11月(新潮文庫)
『漂流』吉村昭。江戸時代の実話をもとにしたドキュメンタリー小説
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確認してから購入することをおすすめします。
「生きる」ことがテーマの小説
◯無人島小説が好きな人
◯極限状態の人間ドラマが観たい
◯勇気が出る本が読みたい
この小説のテーマはずばり!
「生きる」
人間の「生」を題材にした作品は世に数多くありますが、『漂流』はなんせ実話をもとにしているストーリー。
表現にも流れにもリアリティが感じられます。
江戸・天明年間、シケに遭って黒潮に乗ってしまった男たちは、不気味な沈黙をたもつ絶海の火山島に漂着した。水も湧かず、生活の手段とてない無人の島で、仲間の男たちは次次と倒れて行ったが、土佐の船乗り長平はただひとり生き残って、12年に及ぶ苦闘の末、ついに生還する。その生存の秘密と、壮絶な生きざまを巨細に描いて圧倒的感動を呼ぶ、長編ドキュメンタリー小説。
吉村昭『漂流』新潮社 紹介ページから引用
無人島小説好きはもちろんのこと、人間が極限状態でどんなことを思うのか、どんな行動をするのか、に興味をもつ人にも推奨できる作品です。
登場人物たちの勇気と知恵を生きるチカラに替える様子に感動しますよ。
生きる力を失くしそうなときにも読みたい物語ですね。
取り調べ記録からできたドキュメンタリー小説
この本の特徴は、
- 古い年代の本だが読みやすい
- 古さを感じさせない
- 江戸時代の無人島漂着物語
- 孤島で道具も持たずに12年間生存
- 歴史小説でもあり、サバイバル小説
- 物資は少ない。環境も過酷。
- 「まえがき」おもしろい
- 情景描写・心理描写が秀逸
- ドキュメンタリー小説
この本は著者の吉村昭さんが江戸時代の取り調べ記録(漂流民はキリシタンに改宗した可能性があるので取り調べがあった)を丹念に取材した資料をもとにしたドキュメンタリー小説です。
江戸時代の話で、執筆されてから40年以上も経っていますが、文体は全く古さを感じさせません。
12年間無人島で生存した男の歴史小説でもあり、サバイバル小説でもあります。
場所は伊豆諸島の南の端にある鳥島。
冬もあるし、台風も数多く、さらに周辺の海域には黒潮(海流)が流れている過酷な環境です。
情景描写・心理描写にリアリティがあり、読み応えがあります。
加えて、「序」に記されている「アナタハン事件」も興味深く読むことができますよ。
まさに江戸時代のロビンソン・クルーソー
物語では、極限状態の主人公は神や仏に救いを求めます。
ボーナスアイテムが手に入ると神に感謝します。
これって、無人島小説の名作にも似たような記述が・・・。
そう、過酷な環境で力強く生きる姿は江戸時代版のロビンソン・クルーソー!
みどころは、人間の強さと絶望の先にある希望。
ロビンソン・クルーソーは道具や食料といった物資は比較的豊富でしたが、『漂流』では使える道具はほとんどありません。
どのようにして生き延びるのか、ドキュメンタリー小説独特の緊迫感と臨場感が味わえる作品でした。
皮肉なのは、他船が難破するたびに、物資が豊富になる場面。
主人公の心の葛藤も見逃せません。
「まだ」読んでいない人は『ロビンソン・クルーソー』も続けて読みたいですね。
こんにちは。山内健輔です。 子供の頃に読んだ名作『ロビンソン・クルーソー』。 私が中学生のころ、昼休み学校の図書室に何日も通って夢中になった本です。 無人島に流れ着いて、独りで生活していく物語です。 今から300年以上も[…]
大人も夢中に読めるサバイバル小説の名作
物語の最初は、船乗りの青年の話で、普通の歴史小説のような始まり。
ですが、物語が動き出すとともに、夢中になってページをめくってしまいました。
本を開くまでは、いかにも「古くて読みにくそう~」な印象がありましたが、「序」を読んでいるうちに全く抵抗がなくなります。
日本版のロビンソン・クルーソーのような設定ではありますが、話の展開は「すごい!」の連続。
子どもも大人も夢中になれるサバイバル名作のひとつといえるでしょう。
一気に読める作品ですが、「よくぞ食中毒にならなかったな」っていう妙な点ばかりを気にして読んでしまいました(笑)
それはともかく、『漂流』でいちばん感動的なのが、「島に残したもの」。
おもしろいんだけど、早く終わってほしい。
読了後は、誰かとどんなことでもいいから語り合いたくなる。
そんな小説でした。
買って絶対に後悔しない小説です。
ぜひ読んでみてください。
最後に。
吉村昭作品は、この本が初めてでしたが、もっと読んでみたい気持ちになりました。
もっと早く出会いたかった本です。
また期間を空けてから再読してみようと思います。
ちなみに、物語の44年後、登場人物と同じ土佐の「ジョン万次郎」が、この鳥島に漂着するんです。
井伏鱒二(いぶせますじ)の『ジョン万次郎漂流記』は、幕末時代に活躍した中浜万次郎を主人公にした小説。
こちらも機会があればぜひ読んでみてください。
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