こんにちは。山内健輔です。
今回紹介する本は、おもしろいドキュメンタリーを書くことで有名な高野秀行さんの本。
トルコの南東部にあるワン湖(ヴァン湖)にいるUMA・ジャナワールを捜索に向かいます。
現地のジャナワール研究者の情報を片手に数々の人物とのやりとり、同行者の強烈なキャラクター、著者本人の発見に対する熱意などなどおもしろエピソード満載の珍道中な冒険旅。
トルコの民族問題や現地の人々の人柄も絡めたジャーナリスト魂にも目を見張るものがあります。
著者の高野秀行さんは、学生時代にもコンゴでUMA・ムベンベを追いかけた過去があり、その探索は本にもなっています(『怪獣ムベンベを追え』)。
今回の『怪獣記』はそれに比べても遜色ないおもしろさ。
爆笑しながら読書できる一冊です。
2010年8月(講談社文庫)
※2023年に河出文庫から『トルコ怪獣記』としても出版されています。
『怪獣記』高野秀行著。トルコのワン湖でUMA探索ドキュメンタリー
記事執筆時点の情報です。記事ではできるだけ正確な情報を公開することを心がけていますが、金額、内容、出版社、その他の情報が変更されている場合があります。
確認してから購入することをおすすめします。
子どもの心を持ち続けたいあなたにおすすめ
◯未確認生物にロマンを感じる人
◯トルコの文化・情勢に興味がある人
◯秘境・冒険好き
◯少年少女の気持ちを持ち続けたい
極右政治家。
愉快なガイド。
ジャーナリスト兼運転手。
通訳兼プロのスチューデント。
興味本位のカメラマン。
素朴な村人たち。
爆笑しながら読めるドキュメンタリー
『怪獣記』の特徴は、
- ユーモアあふれる文章
- トルコの南東部ワン湖(トルコ最大の湖)での捜索
- 個性的な登場人物
- クルド人問題や軍の情勢も絡むドキュメンタリー
- 爆笑を誘う場面あり
本物かフェイクか それが問題だ!
トルコ東部のワン湖に棲むといわれる謎の巨大生物ジャナワール。果たしてそれは本物かフェイクか。現場に飛んだ著者はクソ真面目な取材でその真実に切り込んでいく。イスラム復興主義やクルド問題をかきわけた末、目の前に謎の驚くべき物体が現れた! 興奮と笑いが渦巻く100%ガチンコ・ノンフィクション。
講談社BOOK倶楽部『怪獣記』(高野秀行)紹介ページより引用
ノンフィクションを読んで、なかなか爆笑してしまう本ってなかなかないですよね。
実は、私この本を読んでプッと吹き出してしまった箇所が2つありました。
本人たちはまじめにやっているものの、その場面を想像すると思わず笑ってしまうんです。
メンバーたちの情熱とやっていることのコミカルさがなんともいえないおもしろさ。
行動しているのは、著者本人のはずなのに、冷静に客観的に滑稽な情景を描写するので笑えてしまいます。
爆笑必至のノンフィクション、ぜひ一度読んでみてほしい作品です。
UMA捜索と民族問題の闇
画像はイメージ:提供 写真AC
トルコ入りして、ジャナワール探しに乗り出して、聞き込みを始める一行。
なぜか、ジャナワールを探しに来たことを伝えると笑われる始末。
そこには、軍や政治家の陰謀の匂いが漂い始めます。
トルコには「クルド人問題」が今も根付いていて、現地の人々の間では大きな課題となっています。
トルコ事情に触れながら、世界四大料理のひとつであるトルコ料理を紹介したり、美しい湖の風景に感動したり。
さらにはトルコの文化や慣習、田舎の素朴な人柄の描写がうまく表現されているところもみどころのひとつです。
また、取材にきているはずが、いつの間にか自分たちが取材される側にまわり、地元新聞の一面を賑わせたり、自分たちがみてしまったものを相手に伝えるときの心情を理解できるようになったり、高野秀行ワールド全開で切り込む姿もみることができます。
取材を重ねるうちに、ジャナワールは偽物だった、架空の生物だったのかも、と諦めかけた一行がみたものは?
その場面がいちばんのクライマックスだと思うでしょ。
でも、本当のクライマックスはその先にあるんです。
ネタバレになるので、その先は内緒にしておきますが、高野秀行ジャーナリスト魂の本領発揮がみられますよ!
人物描写、人の思いを描く作家
読んでいると、あまりに楽しそうな冒険なので、実際にジャナワールが実在するかどうかよりも、もっと捜索する過程をみていたくなりました。
クルド人の現地のガイドさんや運転手さんの心情もよく伝わってくる描写で、単に笑えるだけのノンフィクションではない印象も受けます。
自分を道化にして文章を盛り上げつつも、そこにある思いを上手く伝えるのがうまい作家さんだと思いました。
とくに自分たちが「目撃者」として体験談を語るシーン。
自分のみたものが何なのかわからない。だから困惑する。
自分たちが体験談を「聞く」側にいるときは、相手の熱量に不満をもっていました。
ですが、自分たちが目撃者に。
自分たちが見たものが何なのかわからない。
その困惑が熱量を下げさせていることに気づきます。
奇しくも自分たちが取材してきた相手の気持ちがわかるようになってしまったのです。
出会う人物たちをうまく描写しながら、人の思いを伝える技術がすごく巧みな作家さんです。
今の時点で高野作品はまだ2作しか読んでいませんが、もっともっと読んでみたいと思える作家に出会えました。
本気で探しているからこそのおもしろエピソード。
自分を道化にしておもしろさを倍増させる技法。
情熱と冷静を行き来しながら、そこにいる「人」を描いていく。
ただの「冒険記」なだけじゃなく、社会問題も取り上げて読者を惹きつけられる本でした。
最後に。
人類にまだ科学的に存在を確証されていない動物。
なんだか気持ちがワクワクしますね。
何年か前にはNHKで野生で生きるシーラカンスの存在が明らかになりました。
もしかしたら、地球のどこかで巨大な未確認生物が生存しているかも、と思うとロマンを感じます。
それに高野さんのいう、「未知の未知生物」もまだまだでてくるかもしれません。
もっともっとこんな本を読みたいですね。
ネッシーやビッグフットといった有名な「既知の未知生物」と対比して、まだあまり知られていない未知生物のことを作中で「未知の未知生物」と呼んでいる。
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