徳川慶喜を描く小説。司馬遼太郎『最後の将軍』はどんな小説?

こんにちは。山内健輔です。

徳川15代将軍、徳川慶喜(とくがわよしのぶ)。

いろんな小説やドラマなどで出てくる人物ですね。
役どころはどれも重要な役割を果たす人物。

ですが・・・、あんまりよく知らないんですよね~。
歴史の授業でも出てくる有名な人物なのに、どんな人か知らない・・・。

ある本では「神君・徳川家康の再来」、他の作品では「優柔不断の愚君

そんなときは読みやすい小説で読んでみましょう。

徳川慶喜の小説『最後の将軍』
歴史作家の司馬遼太郎の作品です。

あくまで「小説」なので、実際のところはどうか分かりませんが、徳川慶喜を知るうえで参考になった本でした。

今回は司馬遼太郎『最後の将軍』ネタバレなしで紹介していきます。

徳川慶喜を描く小説。司馬遼太郎『最後の将軍』はどんな小説?

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徳川慶喜と大政奉還を知りたい人におすすめ

こんな人におすすめ
◯幕末小説が好き
◯徳川慶喜について知りたい
◯大政奉還とはなんだったのか?と思う人
◯幕末中級者
『最後の将軍』は、徳川慶喜の生涯を追っていく小説です。
物語のクライマックスは有名な「大政奉還」(たいせいほうかん)。
一橋慶喜が江戸で将軍継承問題に巻き込まれてから、江戸幕府の終焉までは詳しく書かれています。
その他の部分は後日談として書かれていますね。
数多くの幕末の小説では、2つの視点で描かれることが多いです。
ちょー簡単にわけると佐幕派と勤王派。
佐幕派(さばくは):幕府を支えた人物や組織が中心
おもに新選組や会津藩など幕府を守ろうとした人々
倒幕派(とうばくは):江戸幕府を倒す目的の人々
おもに長州藩や薩摩藩、土佐藩、志士と呼ばれる人々
これらの小説は多く読んだことがあるのですが、徳川慶喜自身を書いた小説を読んだことがなかったんです。
徳川慶喜はそのどちらでもなかったんですね。
これまでに読んだ幕末の小説では徳川慶喜の評価はさまざまでした。
  • 徳川慶喜の決断によって明治維新が行われた。
  • 二枚舌を使って江戸政権・京都政権の人々を混乱させた。
  • 部下たちを裏切り、自分だけが逃げた・・・。
  • 弁舌さわやかで立派な人物。

司馬遼太郎の書く15代将軍像は、これらのどれもが当てはまるように描かれます。
そして彼の行動がどのような事情で行われたかの過程を読み解く物語になっているんです。

歴史の教科書では、ほんの数行でしか書かれていない「大政奉還」ですが、司馬遼太郎が書くと、日本を救うための「起死回生の奇策」という位置づけになるのです。

歴史小説好き・幕末好きのあなたには、ぜひ一度読んでほしい作品です。

『最後の将軍』みどころ

この本のいちばんの魅力は、主人公である徳川慶喜の心理描写。

慶喜は水戸藩主・徳川斉昭の子。
少年時代、水戸で「尊皇攘夷」(そんのうじょうい)の思想を叩き込まれます。

尊皇攘夷
夷狄(いてき;外国)嫌いの天皇を敬拝する思想
ペリー来航によって水戸藩から全国の武士の間で爆発的に人気になった。
少年時代から頭がよく器用だった慶喜は、父・斉昭に見込まれることで一橋家へ養子に出されます。
その後、
将軍継承問題

安政の大獄

将軍後見職

攘夷問題と倒幕運動に巻き込まれる

14代将軍家茂の病死

徳川家相続
慶喜が幕府の中心になってからの時代情勢は、とてつもない速度でいろんな方向へと転がり続けていきます。
これらの問題に主人公がどういう行動を起こしていくか?
というのが本作品の見どころ。
水戸藩の思想慶喜の性格、さらには江戸幕府の意向、さらにさらに尊王攘夷派からの期待外国の要求・・・。
慶喜を取り巻く無数の思惑に立ち向かっていく姿が印象に残りましたよ。

イメージが変わる慶喜像

歴史の中でも大きく評価が分かれる徳川慶喜。
作者・司馬遼太郎の人物設定がうまいんです。

  • 知的
  • 水戸思想
  • 貴族的(武士道っぽくない)
  • 孤独
  • 先見の明
  • 感情が不可解
  • 好奇心旺盛
  • 起用

っていう性格。

巧みなキャラクター設定が伏線となって、クライマックス「大政奉還」へと駆け抜けていく・・・。

周囲の思い込みによってがんじがらめにされた徳川慶喜。
最後は尊王思想をもっているのに、皮肉にも「朝敵」とされてしまいます。

徳川慶喜の数々の不可解な行動。今まで私が読んできた本のなかでは解説されていませんでした。

歴史に称賛も批判もされてきた決断の数々

表現が難しい彼の性格(「二心殿」といわれていた)をうまく描写しながらラストへと導いていきます。

最後に。

私がいちばん気になった『最後の将軍』での慶喜の性格。

好奇心旺盛

手先が器用なこともあって、投網や大工仕事もこなしてしまいます。
新しいこと好きで四侯会議でも藩主たちに写真を撮らせたりもしていました。


四侯会議とは

有力な大名経験者3名と実質上の藩の最高権力者1名からなる合議体制で、15代将軍・徳川慶喜や摂政・二条斉敬に対する諮詢機関。~構成は島津久光・山内容堂・松平春嶽・伊達宗城

Wikipedia「四侯会議」より引用


慶喜は一橋家に入ったころから「将軍になりたくはない!」という姿勢でした。
好きなことをして生活していきたかったのでしょうか。

それが時代情勢と周囲の思い込みによって祭り上げられ将軍にされてしまった・・・。

さらに、自分の理解者も身近にいないなかでの大政奉還。
戊辰戦争後は静岡で隠棲生活を余儀なくされました。

隠棲後は、旺盛な好奇心と新しいもの好きが高じて、写真や自転車、刺繍など数多くの趣味を楽しんでいます。
将軍であったころよりも「慶喜らしく」自分が望んだ生活ができたという皮肉も感じる作品でした。

そんな徳川慶喜のよき理解者になれそうだったのが坂本龍馬
大政奉還を龍馬が献策したといわれていますね。

身分も置かれていた立場も全然違う二人ですが、司馬遼太郎小説のなかでは同じ目的をもっているんです。
できれば、『最後の将軍』といっしょに『竜馬がゆく』も読むとより一層楽しめますよ。

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