こんにちは。山内健輔です。
コロナ禍では多くの人が行動を制限されたり、生活様式の変換を迫られたりしました。
とくに世界中で猛威を振るっていたころには、ウィルスの脅威だけでなく、分からないモノへの恐怖から「人の目」も気にしながら生活せざるを得なかったのも現実です。
そんな中で、昆虫学者もまた日々の生活、研究活動の変更を余儀なくされていたのでした。
今回紹介する小松貴博士の『怪虫ざんまい‐昆虫学者は今日も挙動不審‐』は、そのときの苦悩に加えて、どうやって乗り切ったのかをおもしろおかしく綴られたエッセイ。
いろんな事象に憤ったり、偏った自分を反省したり、穴を掘ったり、井戸を漕いだり……。
虫好きの「虫屋」だけでなく、虫マニアの人が近くにいる人にこそ読んでほしい作品です。
2022年4月 (新潮社)
『怪虫ざんまい‐昆虫学者は今日も挙動不審‐』コマツ博士のメッセージ
記事執筆時点の情報です。記事ではできるだけ正確な情報を公開することを心がけていますが、金額、内容、出版社、その他の情報が変更されている場合があります。
確認してから購入することをおすすめします。
「虫マニアが周りにいる人」に読んでほしい本
◯虫マニア!
◯自然が好き
◯虫好きな人が近くにいる
◯小さい子どものいる親御さん
免許はもっていても、車は持っていない昆虫学者は、公共の乗り物を使わない範囲での研究活動を余儀なくされました。
いろんなことに怒ったり、悲観したりするのですが、独特なユーモアに富んでいてめちゃくちゃおもしろい本です。
少しは昆虫マニアの心がわかるかもしれません……。
軽い感じで読める本なので一度読んでみてください。
ユーモアを混じえた昆虫学者のエッセイ
新潮社の『怪虫ざんまい‐昆虫学者は今日も挙動不審‐』の紹介では、
凄絶ホラーな寄生虫、ミズスマシだけにつく幻のカビ、地球史を語る透明な甲虫、冬に碧く輝く超希少ゴミムシ、井戸の底に潜む新種らしきプラナリア……。たとえヤツらが1ミリたりとも人類の役に立たなくても、異常な執念で徹底的に追いかけるのだ。「裏山の奇人」の異名をとるコマツ博士の、暴走する「昆虫愛」エッセイ。
この作品の特徴は、
- 独特な比喩表現がおもしろい
- 世間や社会問題への切り口
- ムシへの愛情
- 昆虫学者の日常
- ユーモアと軽妙な語り口
- コロナ禍と昆虫学者
- 難しくもなく専門的でもない
コロナ禍によって長年計画してきた遠方への昆虫撮影が頓挫することになったコマツ博士。
世間や政府への不満を爆発させます。
ですが、その怒りの矛先が、
井戸を漕ぐこと!
そこで、コマツ博士が見つけたのは……。
外出制限で閉じ込められた昆虫学者は、地下水に閉じこもっている地下性生物を探し始めます。
コロナ禍と昆虫学者の関わり、井戸にいるムシ、隔絶された地下水脈で個別に進化したムシ、珍種を探しに自転車や原付でうろつく話などなど。
おもしろおかしく、ユーモアたっぷりに昆虫愛を語り、環境破壊への警鐘を鳴らします。
他人から挙動不審にみられたり、経済性のない昆虫には研究費出にくかったりする現状を知るにもいい本です。
軽妙な語り口で、流れるように読み進められるので肩ひじ張らずに楽しめますよ。
「ムシ」に対する思いが感じられる本
この本のみどころは、
- 地球環境への思い
- 保護されない生き物への思い
- 派手に保護される生物とされない生物
- 人に知られていない宝石のような昆虫が絶滅させられている
- ある側面からの切り取りでしか見られないことの危うさ
- 章ごとに描かれるイラスト
もちろん他人から見たら挙動不審そのものの昆虫学者の生態も充分におもしろいのですが、一部分の事実だけを抜き取ってみることの危うさに警鐘を鳴らしているところが印象に残ります。
あることをきっかけに、自分もそうした側面をもっている矛盾に気づき、自省している点にも共感を覚えます。
SNSの普及で乱獲を受ける昆虫。
保護される「派手な」動物と保護されない「地味な」生き物。
コマツ博士は、いろんな問題を提起するメッセージを送っています。
章の最初にあるイラストにも注目です!
感想;地球環境を守りたくなる本。
コマツ博士は、本のなかで世間や行政、社会問題にさまざまな問題提起を行っています。
ですが、いちばんのメッセージは、
他人からどう見られようと自分が楽しむこと!
これがいちばん大切だといっているように感じました。
私たちが全く知らないムシを語るコマツ博士の熱量は知らない人からみたら「奇人」かもしれません。
でも、読んでいるうちに、とんでもない行動力とムシへの愛情を感じられるのでした。
本当に好きなものを語ると相手にもその魅力が伝わるように、私もあまり興味がなかった「ゴミムシ」の世界を覗いてみたくなりました。
もうひとつ、本を読んで印象に残ったのは、
優しく静かに見守る奥様の姿
暴走しそうな持論を展開する博士に自省を促したり、子どもを守るためにコマツ博士に自制を求めたり。
ブレーキをかけるだけでなく、コマツ博士を応援している姿にも心打たれます。
好きなモノにハマることのおもしろさと幸せを教えてくれるだけでなく、理解してくれる家族への感謝を感じられるエッセイでした。
最後に。
このブログでも紹介している『昆虫はすごい』(⇒ムシに詳しくないひとも楽しめる本『昆虫はすごい』(光文社新書))にもコマツ博士の撮った写真が多数載っています。
『怪虫ざんまい』の写真はモノクロでわかりにくいのですが、新潮社のホームページでカラー写真が見られます。
実際に見てみるとイメージが湧いてきてより楽しめますよ!
実は、我が家もコロナ禍で子供が生まれました。
コマツ博士と共通点があって、本の内容にも多く共感しました。
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