こんにちは。山内健輔です。
昆虫の生態を解説する本は世に数多くあるけれど、「昆虫学者」の生態を解説する本はほとんどありません。
今回紹介する『昆虫学者はやめられない―裏山の奇人、徘徊の記―』は、昆虫学者のおもしろい生態を解き明かすエッセイ。
昆虫学者というと、テレビやラジオ、他メディアで不思議な昆虫の生態を話す、華々しいイメージがありますよね。
ですが、普段はもっともっと地味で、過酷で、力仕事で……。
とにかく大変な職業です。
虫好きの子どもにも人気の昆虫学者の仕事ぶりをおもしろおかしく、ときにはシリアスに語りかける本。
2018年4月(新潮社)190ページ
紹介していきましょう。
虫の紹介だけじゃない小松貴博士のエッセイ『昆虫学者はやめられない』
記事執筆時点の情報です。記事ではできるだけ正確な情報を公開することを心がけていますが、金額、内容、出版社、その他の情報が変更されている場合があります。
確認してから購入することをおすすめします。
昆虫学者のエッセイが読みたい!
◯虫好きの人
◯虫好きの子の親
◯生態系に興味がある人
◯子どもに読ませたい本を探している
昆虫や生き物が大好きな著者・コマツ博士の日常が書かれている本です。
ユーモアを混じえながら綴られるこのエッセイは、生き物や自然への愛情と知識、笑いや危惧、希望や夢が詰まった一冊です。
昆虫が好きな人にとっては「そうだよね~」と共感しながら、興味がない人にとっては「え、そんなことする?」って感じで楽しめます。
昆虫について解説する部分もありますが、大部分はそれよりもっとおもしろい「昆虫学者の生態」の話。
夢中になって昆虫を観察している姿は、他人から見ると意外に滑稽な姿に見えることも。
冷たい水に入ったり、土を掘ったり……、子どもが羨む昆虫学者も普段は、文字通り血と汗と涙を流す作業そをしているんですね。
昆虫に興味がある人はもちろん、ない人でも絶対におもしろいと思える本です。
「生物」の教科にあまり興味がもてないあなたへ
こんにちは。山内健輔です。 「生物」という授業は、中学校や高校であったにも関わらず、ほとんど記憶に残っていない人も多いのではないでしょうか。 細胞の話から始まって、単細胞生物、多細胞生物、藻類やシダ植物、魚類や両生類……。 […]
明るく楽しい生き物を学べる本
『昆虫学者はやめられない』の特徴は、
- 昆虫学者のエッセイ
- 軽い口調で、流れるように読ませる文章がうまい
- 写真が素晴らしい。
- 淡々と虫を紹介する本ではなく、コマツ博士の活動についてが多い
- 明るく楽しく、生き物や環境について学べる
おもしろいのは、コマツ博士が昆虫を観察しているときに出会った動物の話。
池にいるカエルと交信する話。
林のなかで出会ったリスの話。
公園でのカラスとの友情と闘い。
どの話もユーモアたっぷりにおもしろおかしく書かれていて、読者を飽きさせません。
コマツ博士の日常をみていると、昆虫観察は「苦行」のように思えてしまう場面もあります。
そんなときには、冒険小説を読んでいるようなドキドキ感。
冬の山でガの交尾を探しにいく話や冬山で成虫で越冬する枝に擬態するトンボ探し。
子どもに戻ったような感覚で読み進められるのです。
ときどきジョークを織り交ぜながら軽快に語り継がれる冒険の数々は、ロビンソン・クルーソーやトムソーヤの冒険を読んでいるようです。
こんにちは。山内健輔です。 「生物」という授業は、中学校や高校であったにも関わらず、ほとんど記憶に残っていない人も多いのではないでしょうか。 細胞の話から始まって、単細胞生物、多細胞生物、藻類やシダ植物、魚類や両生類……。 […]
昆虫学者は職業ではない?!
『昆虫学者はやめられない』の著者コマツ博士は、「裏山」とは、必ずしも近くの山を指すわけではなく、「身近に生き物がいる場所」としています。
そう考えると、今私たちが住んでいる都市部にもちょっとした「裏山」は見つけられるはずです。
もしかしたら、道路にある植え込みも「裏山」といえるかもしれません。
副題に「裏山の奇人、徘徊の記」とあるように、コマツ博士を「奇人」、不思議な行動を「徘徊」と冗談交じりで表現しています。
この本のみどころは、
- コマツ博士の軽口に埋もれたムシたちに対する情熱。
- 他人の目を気にせず熱中している自分。
- 冷静に行動を「奇行」だと分析する自分。
確かに、コマツ博士ほどではないにけれど、虫好きの人ならこの本を読んで「分かる、分かる。」と思うでしょう。
虫好きのあるある行動といってもいいですね。
また、昆虫観察で出会った生き物とのやりとりを環境問題や外来種問題とも結びつけて、読者の関心を惹きつけて問題提起をしたり、昆虫学者ならではの分析力で擬態(ぎたい)や共生(きょうせい)についての疑問を投げかけたりしています。
印象に残るのは、
昆虫学者は職業ではなく生き方
と言い切っていること。
本物の昆虫学者だからこそ感じる困難と満悦による本音なんでしょうね。
あっという間に読み終えるおもしろさ!
本当に虫に詳しい人は、変わった人が多い印象がありますよね。
でも、何かに熱中し続けられるのは素晴らしいことです。
とくに自分で「奇人」といいながら、世間に向かって自分の愛する世界を語る姿には感服を覚えました。
コマツ博士の昆虫を探しに行く場面で何度も目にする「いるところにはいる」「見ようと思うと見える」って言葉は、悟りを開いた人の「教え」のようにも思えてしまいます。
”昆虫学者は職業ではなく生き方”という言葉も、虫好きにとっては「名言」です。
小さい頃から虫好きだったけど、虫に関係する仕事を選べなかった私にとっては憧れる言葉だと感じました。
本の執筆や講演、メディア出演で、おもしろい話を披露する華々しいイメージのあるコマツ博士。
このエッセイを読んでいると、本当の喜びは体長1センチにも満たないゴミムシを発見することだったんです。
その喜びのために、今もどこかで穴を掘ったり、地面に這いつくばっていることでしょう。
『昆虫学者はやめられない』は、昆虫好きの人に向けてというよりも世間一般に向けて「昆虫学者」とは何たるかを教えてくれる本だといえます。
読みやすくて、おもしろいのであっという間に読み終えることができました!
最後に。
コマツ博士の昆虫観察を記したエッセイですが、昆虫好きでも知らなかったことも書かれていました。
地下水脈の中に生きるゴミムシや地下性生物。
人が土地を改良することで、水脈が変わりその水脈だけに生きる固有種が絶滅している可能性があるのです。
人に発見もされず、人によって、人知れずに絶滅させられる生き物たちがいること。
深く考えさせられる問題だと感じました。
コマツ博士は世間に向けて、昆虫を通して地球環境の問題についても発信しています。
昆虫たちのためというより、自分がその昆虫を見たいから……かもしれませんが。
興味をもった人は、他にも書籍があるのでぜひ読んでみてください。
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