池田屋事件の裏にあった人間ドラマを描いた本『池田屋乱刃』

こんにちは。山内健輔です。

池田屋事件といえば、幕末にあった時代の転機となった事件で有名ですね。
「池田屋の変」「池田屋騒動」ともいわれています。

池田屋事件はおもに新選組の視点で描かれることがほとんどです。

ですが、今回紹介する伊藤潤の『池田屋乱刃』(いけだやらんじん)では、尊王攘夷派(そんのうじょういは)といわれる反幕府方にいる浪士からみた事件の様子が読めるんです。

作者の伊東潤の書く小説は、人物の「情熱」を題材にしていることが多いのが特徴。
とにかく熱いんです。

今回紹介する小説も、主人公たち(主人公が5人いる)が歴史の一場面で必死に生きているさまを描いた人間ドラマ

読んだあとは、なんとなく余韻に浸るような、幕末に思いを馳せるような感覚になりました。

幕末ファンにおすすめしたい小説『池田屋乱刃』ネタバレなしで紹介していきましょう。

池田屋事件の裏にあった人間ドラマを描いた本『池田屋乱刃

 

もう一度読みたい ★★★★★
人情ドラマ ★★★★★
読みやすい ★★★★★
※ご注意
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幕末好きにおすすめ

こんな人におすすめ
◯幕末好き
◯歴史小説・時代小説好き
◯熱いドラマが読みたい
◯時代の脇役が主人公の作品が読みたい

幕末小説なので、幕末好きにはおすすめ。
幕末ものは古い本に良書が多いので、文体が読みにくいことが多々あります。

ですが、この本は2014年に出版された本なので比較的新しい部類ですね。
なので、他の幕末小説よりも格段に読みやすい文章です。

池田屋事件を題材にしているものは新選組に主軸を置きがちですが、『池田屋乱刃』では反幕府側からの視点。

主人公は池田屋事件に関わりのあった5人の尊皇攘夷派に属する人物たちです。
新選組ファンも長州藩びいきの人も倒幕派の人々にも心に刺さるような物語。

ただし、幕末もの1冊目という方には、ちょっとわかりにくいかもしれません。
というのは、この本は「歴史を語る」という類の本ではなく、歴史の裏にある人間的なドラマに主題を置いています。

読むときは、歴史的背景や当時の空気感をある程度知っておくと、物語のおもしろさがわかりやすいはずですよ。

この本の主人公たちは、名前はよく聞くけれどもどんな人物だったかは、今まであまり語られなかった者たちばかり。
(1編目の福岡祐次郎は名前さえ知りませんでした)

この本を読んで、他の小説でも動向をチェックしてみたくなるような魅力的な人物です。
新しい興味を引き出させてくれる本です。

本の特徴①複数の視点からみた池田屋事件

『池田屋乱刃』伊東潤 
2014年10月初版 講談社文庫

目次
第1章 二心なし
第2章 士は死なり
第3章 及ばざる人
第4章 凛として
第5章 英雄児

池田屋乱刃 目次より引用

1864年6月5日にあった「池田屋事件」を尊王攘夷派側の志士からみた視点で描いた物語です。
この本は、各章の主人公が違う人物で短編になっていて、同じ事件をそれぞれの視点で描いているのが特徴。

その短編小説の全部に繋がりがあり、一種の長編小説のように読むことができる「連作長編」という手法をとっています。

どの章でも池田屋事件がクライマックスになっているので、それぞれの主人公がどのような背景で事件に望むのかというところが本のみどころです。

別の章どうしが伏線になっていたり、人物が会合する場面でそれそれの心境が別々に語られたりといった読み応えのある構成になっています。

この本に登場する主人公たちは全員、出身も身分も違う人物を選んでおり、幕末当時の時代の熱を感じられる作品です。

また、時代背景を冒頭の1章で説明することで、その後の章での説明を最小限にする工夫もみられます。

冒頭の『二心なし』は、~~省略~~読みやすいこの一篇の中で、当時の政治情勢を密に描くことで、続くエピソード群において、政治情勢の説明を必要最小限にした。

伊東潤公式サイト「池田屋乱刃 作者より」から引用

本の特徴②歴史を語るというよりも人間ドラマ

各章の主人公は、

  • 1章 福岡祐次郎
  • 2章 北添佶摩
  • 3章 宮部鼎蔵
  • 4章 吉田稔麿
  • 5章 乃美織江 桂小五郎

この本が扱う「池田屋事件」は幕末の転換期となった事件。
新選組が名を挙げた一方で、尊王攘夷派の面々は有為な人材を多く失いました。

そんな尊王攘夷派からみた池田屋事件。
池田屋で散った男たちと生き残った男たち。

古高俊太郎が新選組に捕縛されたことから始まる池田屋事件への一連の流れは、今回の主人公たちにとって時代の激流でした。

この作品はその激流の中で必死に生きた者たちの物語です。
歴史を語るというよりもそれそれの人物たちをカッコよく描いたストーリー。

主人公を支えた女性との恋があり、英雄とされた人物の人間臭さがあり、国を守ろうとする男たちの夢がある物語です。

幕末の人物でチェックする人物が増えた!

私も幕末小説を数多く読みました。
ただこの本の主人公たちの名前は聞いたことがあっても、人物については詳しく知りませんでした。

小説なので史実とは違っていると思いつつも、気になる人物としてマークしてみたい人物ができました。
吉田稔麿(よしだとしまろ)です。

私がいちばん気に入った章は「凛として」。
吉田稔麿が主役の物語です。

物語では吉田稔麿は長幕融和政策のために動いていたことが明かされています。
もし、新選組がそれを知っていたならどうなっていたのでしょう?

私は幕末小説は新選組から入ったので、幕府に肩入れしがちでした。

『池田屋乱刃』では、尊王攘夷派の目線でありながらも、新選組をことさら悪くは書かれていません。
作者はどちらの側にもそれぞれの正義があったことを知っているのです。

もし吉田稔麿と幕府を近づける仲介役みたいな人物がいれば・・・とか
お互いの主張を分かり合うことができれば・・・とか

いろんな妄想を抱かせるのが歴史小説なんですね。

最後に

新選組ファンがこの小説を読むのもおすすめです。
隊士たちは池田屋の現場以外にはあまり登場場面はありませんが、ひときわおもしろい記述が・・・。

  • えらの張った男
  • なぜか血を吐いた男
  • 頭から血を流した男
池田屋の中に最初に踏み込んだのは、近藤勇・沖田総司・永倉新八・藤堂平助といわれています。

新選組ファンなら誰だかわかりますね。
お互い名のり合う場面ではないので、誰と戦っているのか分からなかったことは推測できます。
作者も絶対意識して書いてるな~と思い、読みながらちょっと笑ってしまいました。

この本を選んだきっかけは本当にたまたま。
完全に「ジャケ買い」でした。

偶然にもこういう余韻の残る本に出会えたこと、自分で選んだことが嬉しいです。

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