こんにちは。山内健輔です。
作家・鈴木光司さんの作品は、「水」や「遺伝子」、「世界のしくみ」がキーワードとなる作品が多いのが特徴です。
今回紹介する小説『光射す海』もそれらがキーワード。
何年も前に読んだときには、あまり印象に残らなかった作品でしたが、最近になって再読したら奥が深くって、めっちゃおもしろいことに気づきました。
すべてを説明するのではなく、一つひとつの事実を積み重ねることによって、物語を紡ぎ出していく手法。
読者が謎を解き明かしていくような感覚で、小説を楽しめる本です。
この物語は、一人の女性が入水自殺をしようとしたところを助けられたことから始まります。
おもな登場人物には、暗い過去や後ろめたい事実をもっていて、決して明るいとはいえない小説ですが、読後感は悪くないものでした。
今回もネタバレなしで紹介していきます。
(角川文庫 2010年10月) (新潮文庫 1996年5月)
『光射す海』鈴木光司著。作り込まれたストーリーに圧倒される小説。
記事執筆時点の情報です。記事ではできるだけ正確な情報を公開することを心がけていますが、金額、内容、出版社、その他の情報が変更されている場合があります。
確認してから購入することをおすすめします。
おすすめの人
◯メディカルミステリー好き
◯鈴木光司ファン
◯感動ストーリーを探している
◯読み応えのある小説を探している
◯リアルな人間味を読みたい
鈴木光司さんは科学と論理を使いながら、感情を自由自在に操る作家。
『リング』や『らせん』といったホラー小説に定評がありますが、スケールの大きな小説で人の心を動かす作品も多いんです。
『光射す海』の紹介文では、
理不尽な宿命、押し寄せる運命。行き着く先は?
海岸で倒れていた女性は、言葉と記憶を失っていた。しかも妊娠4ヶ月。彼女はいったい誰なのか? 精神科医の望月は、彼女の過去の物語のかけらを探し始めるが……!? 人間の宿命を問うヒューマンミステリ。
角川文庫「光射す海」紹介文ページより引用
この作品に登場するどの人物も「人間臭さ」がうまく表現されています。
その中で、壮大なスケールで真相が解明されていく、おもしろい作品です。
科学的であり、論理的でありながらも、人間味も表現して感情が揺さぶられます。
私も何年も前に読んだときには印象に残らなかった作品ですが、最近、読み直してみるとその魅力に圧倒されました。
年を重ねたことで自分の感性が変化したのかもしれませんね。
鈴木光司作品のヒット作『リングシリーズ』紹介記事
こんにちは。山内健輔です。 ホラー映画で有名な『リングシリーズ』。 原作の小説は、鈴木光司さんの作品です。 映像作品では、井戸やテレビから女性が這い出してくるようなホラーに描かれています。 ですが、小説版ではちょっと違った風[…]
壮大なプロットで女性の謎を解く!
『光射す海』の特徴は、
- 壮大な構成がすごい
- ちょっと泣ける
- 科学と論理で解明していく
- 恋愛要素あり
- 心理描写うまく、感情を揺さぶる
舞台は、現代の日本です。
ですが、全部を説明しないで、読者の想像を誘導する方法は、近代文学を読んでいるような雰囲気があります。
場面転換が多いのが特徴で、登場人物たちが別々の物語を進行しているように感じます。
それが、後半に繋がってくると、ストーリーのおもしろさが加速。
終盤にはひとつの物語として一気に真相が解明されていく構成になっています。
前半でいろいろな伏線が散りばめられていて、真相が解明されることでそれらがスッキリしていく構成は見事なものです。
みどころは「言えなかったこと」「気づけなかったこと」
この作品のみどころは、
どの人物も人間臭い!
ってこと。
読者が登場人物の誰かに感情移入して物語を楽しむのが一般的な小説ですが、『光射す海』の登場人物たちは、みんな後ろめたい過去や本性をもつ者ばかり。
いまいち共感しにくいところも多いんです。
でも、誰もがそういった後ろ暗い一面はあるもの。
相手の思いに「気づけなかった自分」、本当のことを「言えなかった自分」。
登場人物たちがそのことに苦悩しながら生きるヒューマンストーリーです。
鈴木光司作品のキーワード、「遺伝子」と「水」がどのように関わってくるかもみどころのひとつ。
科学小説と恋愛小説、冒険小説と一度にいろんな作品を読んだ気になりますよ。
読後はタイトルに納得。
読んでいる途中は、ほんのタイトル『光射す海』の意味がわかりませんでした。
ですが、読後は納得。
人間臭い登場人物たちが自分たちの過去を克服していく姿は心地よく感じました。
必要以上の説明はせず、事実を挙げていって読者を納得させる構成は、自分が謎を解き明かしているようでおもしろい読書体験になります。
結末も読者に想像させてくれます。
論理と感情のバランスがちょうどいいので、読み疲れもなく余韻がのこる作品でした。
最後に。
この小説を当ブログで紹介するのにどの「カテゴリー」にするか、非常に迷いました。
なんせ、科学的な要素、ミステリー要素、ヒューマンドラマ、冒険要素などいろいろ詰まっているからです。
ですが、今回は「冒険・サバイバル小説」のカテゴリーにしました。
『光射す海』において、冒険・サバイバル要素が重要なポイントになっていることが理由です。
鈴木光司作品はいくつか読了していますが、間違いなくおもしろい小説を書く作家さんです。
「リング」シリーズもおもしろいのですが、『楽園』も感動するぐらいにいい小説です。
一緒に読んでみてくださいね。
こんにちは。山内健輔です。
今回は、少し古い作品になりますが、私が今まで読んだなかで、繰り返し何度も読んでいる本を紹介します。
『楽園』鈴木光司 著
2010年2月(角川文庫)352ページ
※1995年12月に新潮文庫からも文庫[…]
『光射す海』はアマゾンのAudible(オーディブル:聞く読書)の聴き放題にも入っています。
聞いて読書するのもおすすめの作品です!
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