こんにちは。山内健輔です。
戦国時代、関東の覇者といえば、北条氏。
鎌倉時代の執権を握った北条氏との混同を避けるため「後北条氏」とか「小田原北条氏」ともいわれています。
その後北条氏の開祖といわれている北条早雲。
生前は伊勢新九郎盛時(いせしんくろうもりとき)や伊勢宗瑞(いせそうずい)、韮山さま(にらやまさま)とも呼ばれていました。
室町時代末期~戦国初期の時期を描いた作品で、関東地方がおもな舞台。
戦国時代の幕を開けたのは北条早雲だともいわれています。
今回の記事は、私の好きな作家、富樫倫太郎さんが描いた小説『北条早雲シリーズ』を紹介していきましょう。
北条早雲を知らない人にもぜひおすすめしたい一冊です!
全5巻(中公文庫)
本当に悪人?富樫倫太郎『北条早雲シリーズ』がおもしろい!
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痛快!出世物語が読みたい人におすすめ!
◯北条早雲を知りたい!
◯戦国時代がどうやって幕を開けたのか知りたい!
◯関東を代表する大名に上り詰める出世物語が読みたい!
◯歴史に詳しくない人
◯後北条氏の物語が読みたい人
北条早雲。
若い時代は「伊勢新九郎盛時」(いせしんくろうもりとき)。
大名になってからは「伊勢宗瑞」(いせぞうずい)。
家督を譲ってからは、民衆に「韮山さま」(にらやまさま)とも呼ばれた男。
ほぼ裸一貫から戦国の関東地方を席巻するまでの勢力を築いた人物の物語です。
時代は室町時代の末期。
「応仁の乱」(おうにんのらん)が始まって、世が乱れまくって、民は飢えと重い年貢に困窮している時代。
富樫倫太郎の描く北条早雲は、最初から立身出世とか下剋上を狙って立ち上がったわけではありません。
「困っている人のために自分ができること」
それを実現するために行動していた結果、大きな領地を統治するまでに至ったのです。
北条氏が家督を争ったりせず、5代にわたって安定した領地経営を治めたのも私欲を抑えた早雲の家訓によるものとされています。
富樫倫太郎『北条早雲シリーズ』は、全5巻で読み応えバッチリ。
一見、長いと思いそうですが、富樫倫太郎の北条ワールド(ファンの間では「北条サーガ」と呼ばれている)に引き込まれて、終わってほしくないぐらいに感じられるはずです。
北条早雲シリーズ。読む順番
1巻2巻・・・のように順番がついていればわかりやすいのですが、実際は~編のような表題になっていて、順番がわかりにくいです。
刊行順に読んでいけば間違いありません。
- 青春飛翔編
幼少期から青年になっていく時期で、新九郎が仲間に慕われる姿が描かれています。リンク - 悪人覚醒編
今川家の家督争いに巻き込まれる新九郎。
そのなかで仲間とともに力を発揮していく流れ。リンク - 相模侵攻編
伊豆の半分を手に入れた宗瑞(新九郎)。
山内上杉氏と扇谷上杉氏とのかんけいが 複雑化するなかで相模へ進行する後期が訪れる?!リンク - 明鏡止水編
伊豆統一と小田原攻めなど見どころ満載の一冊。リンク - 疾風怒濤編
超難敵の三浦市との決着のとき。
相模侵攻と両上杉氏との攻防。早雲シリーズクライマックスを迎える!リンク
北条早雲の生涯を描いた物語
伊勢新九郎(後の北条早雲)は、叔父との養子縁組のため備中荏原郷から都へ向かう。そこで見た極楽と地獄が同居しているような光景に、「都には魔物が棲んでいる」と恐れを抱く。やがて室町幕府の役人となり、ある役目を果たすため向かった駿河では、名将・太田道灌と出会うことに。
「戦を好まぬ」という生ける伝説の姿を知り、新九郎は己の生き方を悟る――。
北条早雲の知られざる前半生がここに!
『北条早雲シリーズ』の特徴です。
- 北条早雲(伊勢新九郎)の少年時代から伊豆・相模を手に入れるまでの生涯
- 現代語で読みやすい
- 複雑な背景が丁寧に説明されていてわかりやすい
- 読み応えもばっちり
- 心地いい読み心地
富樫倫太郎作品全体にいえることですが、背景や状況の描写や説明が丁寧にかかれています。
なので、非常に読みやすいのです。
歴史に詳しくない人、歴史小説が苦手な人でもかなり読みやすい小説といえるでしょう。
場面の展開も速いので、長い小説ですが冗長な感じは全くないのも特徴のひとつ。
読み応えばっちりながらも、スイスイと読み進められますよ。
民を大事にしたといわれる早雲の心情の変化もわかりやすく描かれていて、冒頭から物語に引き込まれること間違いなしです。
人を幸せにするために捧げた人生
戦国の三大梟雄(きょうゆう;悪人)のひとり、といわれた北条早雲ですが、富樫倫太郎の「北条サーガ」での人物像はちょっと違います。
北条早雲・斎藤道三・松永久秀
三人とも裏切りを繰り返し、下剋上をした人物として有名
北条家・武田家・上杉家の軍配者(戦に関する助言を行う役職)たちの競争と友情を描くシリーズ。
人を思う気持ちがすべてを兼ね備えた作品ともいえる作品ですよ。
立場によって悪人にも善人にもなるのが英雄の証
悪人として書かれることが多い北条早雲ですが、領地の農民たちにとっては聖人のように映ったのかもしれません。
実際、私は八王子に住んでいて、近くに八王子城跡があります。
八王子城は、後北条氏4代目当主の氏政(うじまさ)の弟である氏照(うじてる)のお城。
豊臣秀吉による小田原攻めのときに、上杉景勝や前田利家、真田昌幸らによって落城しましたが、現代になった今でも10月になると「北条氏照まつり」が開催されています。
400年以上経ったいまでも地元の人々に北条家は愛され続けているといえますね。
実際、八王子に住んでいるだけあって、北条家に思い入れを持ちながら『北条早雲シリーズ』を読み進めることができました。
北条早雲は謎も多い人物だけに想像と創作の余地が多いので、作者の構成や展開のしかたによっておもしろい物語になるんですね。
あまり知られていない人物なので、勢力関係がわかりにくいのが難点ですが、富樫倫太郎の北条早雲は魅力的で、わかりやすく背景も描いてあるので、読んでいて満足度が高い作品でした。
そして、後北条氏三代目『北条氏康シリーズ』も刊行中。
長く楽しめるシリーズ、富樫倫太郎の「北条サーガ」から目が離せませんね。
最後に。
先に『軍配者シリーズ』が出版されていますが、時系列では『北条早雲シリーズ』のほうが古いです。
どちらから読んでも楽しめる作品ですが、『北条早雲シリーズ』を先に読むことを私はおすすめします。
『軍配者シリーズ』では、早雲の功績を振り返る場面があるので、北条早雲を読んでおくとその場面の感慨も深いのです。
もうひとつ、北条早雲の関連でおもしろい作品は、伊東潤『疾き雲のごとく』。
こちらの作品では、「悪人」っぽく振る舞っていながらも、慈悲深い北条早雲に出会えますよ。
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