ガルトネル事件を題材にした小説『箱館売ります』富樫倫太郎著

こんにちは。山内健輔です。

富樫倫太郎は私の好きな作家さんです。

代表的作品のSROシリーズを読んでファンになり、軍配者シリーズ北条早雲などどれもおもしろい小説ばかり。

そんな富樫倫太郎が私の好きな土方歳三を書いた蝦夷血風録シリーズ

これは読まないわけにはいきません。

今回紹介する『箱館売ります‐土方歳三蝦夷血風録』は、実在の事件を題材に土方歳三の活躍を魅力的に描いた作品です。

期待に違わず、魅力的な土方歳三が大活躍しています。
ぜひ一度読んでみてほしい作品ですよ。

ガルトネル事件を題材にした小説『箱館売ります』富樫倫太郎著

『箱館売ります‐土方歳三 蝦夷血風録』(中公文庫)富樫倫太郎 著
2013年4月 上巻・下巻

※ご注意
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確認してから購入することをおすすめします。

『箱館売ります』おすすめの人

こんな人におすすめ
◯土方歳三ファン
◯幕末好き
◯おもしろい歴史小説を探している
◯気軽に歴史を読みたい人
とにかく土方歳三がかっこよく書かれている作品なので、土方歳三ファンにはたまらない作品です。
他の小説では簡易的にしか描かれていないことが多い、箱館での歳三の姿がみられます。
富樫倫太郎の書く土方歳三は優しくてカッコいいのが特徴。
箱館での旧幕府軍の統治時代はすごく短い期間だったので、くわしく描写している本は少ない印象でしたが、この蝦夷血風録シリーズでは詳しく観ることができます。
旧幕府軍、新政府軍のスパイ(遊軍隊)、世界各国それぞれの思惑をうまく表現しながら物語が進んでいきます。
著者は箱館の出身なので、地域の描写がくわしく、巻頭に地図が掲載されているので位置関係も把握しやすいのも特徴のひとつ。
歴史好き、幕末好き、土方ファンのほか、新選組の市村鉄之助に思い入れのある人にはとくに読んでほしい本です。

特徴:実際の事件とフィクションが混ざった名作

 

読みやすい ★★★★★
主人公がヒーロー ★★★★★
脇役が光る ★★★★★

 

『箱館売りますー土方歳三 蝦夷血風録』の特徴は、

  • 現代語で読みやすい
  • 実際にあったガルトネル事件を背景にしている
  • 暗くなく、軽い感じで読める
  • 旧幕府軍の箱館時代を詳しく描写
  • 脇役の使い方がうまい
  • 侠気のある土方歳三

上巻下巻に分かれています。
上巻は人物や状況の設定、伏線を描いていき、下巻から一気に物語が加速していくタイプの小説。

前半は土方歳三の登場も少なめで、人によっては読みにくいと感じる人もいるかもしれません。
ただし、後半に物語が動き出してからは一気に読みやすくなり、ページをめくるのが止まらなくなります。

人物の描き方がうまく、登場人物の性格や人柄設定がすごく人間くさいので、主人公の歳三だけでなく脇役にも魅力がたっぷりです。

実際にあったガルトネル事件を背景にしており、史実とフィクションを織り交ぜながらストーリーは進みます。
他の人物からみた「土方歳三の魅力」が味わえる作品です。

ガルトネル事件を題材に歳三の侠気が光る

話は、箱館統治が江戸幕府→新政府側→幕府脱走軍(旧幕府軍)に変わったことによる混乱に乗じて、プロシア人を操ったロシアが土地を手に入れようとした事件を背景にしています。

ガルトネル事件」といわれ、実際にあった問題です。(ロシアが糸をひいていたのはフィクション

ガルトネル事件
プロシア人のR・ガルトネルが箱館府から借りていた七重村の300万坪の土地を旧幕府軍(箱館政府)から99年間借り受ける条約を結んだ。
その後、明治新政府が箱館を占領すると、この土地を足がかりに列強国の植民地になることを恐れた新政府が賠償金を払って取り戻した。
詳しくは七飯町歴史館「明治時代のななえ」が詳しいです。

この事件を旧幕府軍(土方たち箱館政府)、ロシアの軍官、明治新政府のスパイ、三つ巴の視点から描いていくストーリー。

この問題をそれぞれの組織からの多角的視点で物語は進行します。
同じ事件を扱っていても、それぞれの正義があって、この問題もなかなかおもしろいんです。

ただし、あくまでも本作は「土方歳三の生き様」にスポットを当てたもの。
前半では、土方の登場回数は少なめですが、後半は土方の采配が活躍します。

そのなかでも私が印象に残った「みどころ」は、

  • 中村三郎助とのやりとり(箱館奉行並)
  • 市村鉄之助とのやりとり(土方歳三の小姓)
  • 斉藤順三郎とのやりとり(新政府軍の遊軍隊)

土方と深く関わる人物たちとのやりとりの中で、人間味というか武士道というか人情のようなものを心で感じられるのです。

そして、もうひとつ小説を読んでいて印象に残ったアイテムと出来事があります。

  1. 箱館政府のお披露目パーティ
  2. 石田散薬
  3. 白いスカーフ

これらのキーワードが物語にどのように関わってくるのかは読んでみてお楽しみください。

別人の視点から土方歳三を描く

この本を読むまでは史実の「ガルトネル事件」は知りませんでしたが、土方歳三や魅力的な脇役たちを通しておもしろく読むことができました。

物語の視点は土方歳三だけではないのですが、間違いなく土方歳三を描く作品です。
おおくの作品では冷徹に描かれがちな土方歳三ですが、富樫倫太郎の描く土方は人間臭く、人情味あふれる侠気あふれる人物でした。

『箱館売ります』では、有名ではない歴史に埋もれている事件を、個性あふれる脇役たちと活き活きした歳三によってうまく、おもしろい物語として成立させています。

ラストは余韻を感じられる作品でした。

最後に。

蝦夷血風録は、富樫倫太郎の箱館3部作のひとつです。

『箱館売ります‐土方歳三 蝦夷血風録』2013年4月
『松前の花‐土方歳三 蝦夷血風録』2013年6月
『神威の矢‐土方歳三 蝦夷血風録』2013年8月

このほかにも、歳三の障害を描いている、

土方歳三 (上)

全部一緒に読んでほしい作品です。

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