富樫倫太郎の小説『松前の花』土方歳三の存在感が光る蝦夷血風録。

こんにちは。山内健輔です。

富樫倫太郎は、私も好きな作家でいくつもの作品を読んでいます。

富樫倫太郎は多くの作品を書いていますが、そのなかでもとくに土方歳三の作品は丁寧に描かれているのが特徴です。

今回紹介する『松前の花‐土方歳三蝦夷血風録』は、彼の「箱館三部作」とよばれる作品の2作目。
題材は箱館戦争(箱館での戊辰戦争)ですが、和菓子屋のパンづくりと武家娘の仇討ちを絡めたおもしろいストーリー展開になっています。

単独で読んでも充分におもしろい作品です。
もちろん3部作全部一緒に、ついでに小説『土方歳三』も一緒に読むと、もっとおもしろい「長編小説」になります。

今回は『松前の花‐土方歳三蝦夷血風録』についてネタバレなしで紹介していきましょう。

『松前の花‐土方歳三蝦夷血風録』上巻下巻 
富樫倫太郎 著 (中公文庫)2013年6月

富樫倫太郎の小説『松前の花』土方歳三の存在感が光る蝦夷血風録。

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土方ファン&幕末ファンにおすすめ

こんな人におすすめ
土方歳三ファン
◯伊庭八郎ファン
◯人見勝太郎ファン
◯箱館戦争に興味がある
◯幕末小説好き
箱館三部作の1作目『箱館売ります』では「ガルトネル事件」が題材でしたが、今回の『松前の花』では、パン作りと仇討ちがキーワード。
一見、箱館戦争や土方歳三とは全く関係なさそうですが、富樫倫太郎の土方ワールドではたいそうおもしろいストーリーに展開していきます。
土方歳三らの蝦夷政府には、父の仇討ちに燃える娘、戦の携行食としてパン作りを依頼される和菓子職人の姿があった。知られざる箱館戦争を描くシリーズ第二弾。
富樫倫太郎の小説『土方歳三』では、若いころからの悪友、伊庭八郎との友情育む描写がありました。
今回の『松前の花』ではその伊庭八郎が大活躍。
さらに土方歳三と伊庭八郎とも戦友である人見勝太郎も一緒に物語を盛り上げていきます。
今回は箱館ではなく松前がおもな舞台。
松前奉行の人見勝太郎と伊庭八郎の方が土方歳三よりも登場が多いぐらいなんです。
富樫作品は人物どうしのやりとりが秀逸で、私が気に入っているところ。
覚悟を決めた登場人物たちの会話は、胸を熱くするものがあります。
歴史小説、時代小説が好きな人ならおもしろいと感じる作品ですよ。

小説『土方歳三』の外伝ストーリー(特徴)

  • 主人公は土方ではないがやっぱり土方が光る
  • 小説『土方歳三』の外伝的小説
  • 箱館三部作の2作目
  • 文章は現代語で読みやすい
  • 終盤の読み応え
  • 会話で人物の「思い」を代弁するのがうまい
  • 複数の話を同時進行させて結びつける

物語の視点は、土方歳三ではない人物の方が多いです。
主人公は歳三じゃないってこと。

でも、やっぱり主役は土方歳三なんです。
わざと土方目線を少なくして、存在感を目立たせることでおもしろいエンターテイメントに仕立てられています。

物語はいくつかのストーリーが同時に進行していきます。
最初は別々に進行しているように見えますが、終盤に一気に合流。
ドラマを加速させるのです。

読みやすい文章なので、物語に入りこんだ途端に一気に読み進められます。
私たちがほとんど興味を持たなかったような話(パン作り)をうまく本題に結びつける手法が、ものすごくうまいんです。

登場人物たちの「思い」を会話の中で描写されていて、涙を誘う場面もあって、読了後には余韻が残ります。

戦闘場面は簡潔ではありますが、しっかりした臨場感が味わえます。
明治政府軍の松前攻撃の詳細もわかりやすく描かれているので勉強にもなりました。

富樫作品の歳三はやっぱりカッコいい!(みどころ)

作品のみどころ

  • 和菓子屋のパン作りと物語の関わりは?
  • 箱館戦争のなかに埋もれていた人間ドラマ
  • 人見勝太郎・伊庭八郎・土方歳三の友情
  • 登場人物たちの魅力
  • 武家娘はどうなる?
  • 土方歳三の存在感と安心感
  • 人見勝太郎と伊庭八郎の会話
  • パン作りの話もおもしろい

著者の富樫倫太郎は間違いなく「土方歳三」好き。
だけあって、小説に登場する土方歳三はいつもカッコいい役どころ。

私がこの小説で気に入っているのは、松前奉行の人見勝太郎と試衛館時代からの友人である伊庭八郎、そして土方歳三。

三人とも、

優しくてカッコいい!

この三人の会話ややりとりが見ていて微笑ましいというか、うらやましいというか、お互いを信頼しあったうえで軽口をたたきあう描写。

どんなときでも、取り乱さずに自分のやるべきことを実行する強さももっている三人なんです。

みどころは他にもたくさんあるのですが、内容に触れてしまいそうなのでやめておきます・・・・・・。

感想;予想以上におもしろい展開。

最初は読んでいて、和菓子職人が苦労してパン作りをする話かと思ってしまいました。

が、

読み進めるうちに予想以上におもしろい展開になるんです。
(もちろんパン作りの話も興味深くよめます!)

印象に残ったのは、伊庭八郎と人見勝太郎コンビの活躍。
他の小説ではあまり主役級の活躍をする人物ではないのですが、ふたりの魅力を充分に引き出している小説なんです。

キャラクター設定もうまくできていて、他の関連作品とリンクしています。

箱館政府軍の登場人物のほとんどが、生き残れないことを覚悟している上でのストーリー。
どうしても悲観的な話になりがちですよね。

でも、そんなことはなく、人との「つながり」や「思い」がうまく描かれている小説でした。

パン職人とその妻、スミ。
人見と伊庭。
土方と蘭子(武家娘)。

それぞれの思いを胸に自分の戦場に臨んでいく姿に胸をうたれました。

最後に。

物語に登場する松前藩の「下国東七郎」(しもぐにとうしちろう)という人物。

実は新選組の幹部だった永倉新八(ながくらしんぱち)という隊士が遺した【激白新選組】にも登場します。

永倉新八は維新後も生き残り、脱藩していた松前藩に復帰。
このときに永倉をかくまったのが、下国東七郎です。

『松前の花』ではどんな役どころになっているのか注目して読んでみてくださいね。

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