富樫倫太郎『神威の矢‐土方歳三蝦夷討伐奇譚』意外と楽しめる小説

こんにちは。山内健輔です。

富樫倫太郎が書く土方歳三は、カッコいいヒーロー像が特徴です。
その土方歳三シリーズの箱館三部作の3作目。

『神威の矢‐土方歳三蝦夷討伐奇譚』富樫倫太郎 著
2013年 8月 (中公文庫)

※単行本では『殺生石』というタイトルでした。

ソロモン王だのシヴァ女王だの、狼男、フリーメーソン、さらには金毛九尾の狐や陰陽師、殺生石が出てくる和洋折衷(わようせっちゅう)の伝奇物語。

これらに箱館戦争(戊辰戦争)アイヌの歴史を題材に波乱だらけのエンターテイメント小説です。

純粋な歴史小説ではなく、どちらかというとファンタジーな小説ですが、歴史好きならおもしろい作品ですよ。

今回もネタバレなしで紹介していきます。

富樫倫太郎『神威の矢‐土方歳三蝦夷討伐奇譚』意外と楽しめる小説

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歴史好きにおすすめ

こんな人におすすめ
◯歴史好き
◯土方歳三ファン
◯北海道の歴史に興味
◯おもしろい伝記小説が読みたい

いろんな伝奇が混ざったお話です。

ソロモン王やシヴァ女王、カリオストロ伯爵などの西洋の時代を超えた歴史人物。
陰陽師・安倍泰成や玉藻(たまも)の前という日本の世代を超えた人物。

吸血鬼や狼男、ゾンビといった西洋の怪物と金毛九尾の狐(きんもうきゅうびのきつね)も合流。

※金毛九尾の狐
インドや中国、日本で美しい女性になりすまして、時の権力者をたぶらかして人々に災いをもたらしたとされる狐の妖怪。
日本では「玉藻の前」に化けて、天皇をたぶらかしたが、陰陽師・安倍泰成に見破られて、「殺生石」に閉じ込められたとの伝説がある。

フリーメーソンやアイヌの人々、さらにはプロシアのガルトネル兄弟、箱館政府(旧幕府軍)、房総の漁師の息子に土方歳三も絡んでくるスケールの大きな小説です。

史実に基づいた「歴史小説」というよりは、戊辰戦争を背景にしたフィクション(もちろんですが……)の「時代小説」

和人による「アイヌ人への迫害」といった歴史の問題についても触れています。

歴史に詳しい人は、「お~そこを絡めてきたか~」と読めるし、詳しくない人もドキドキしながら楽しめる作品ですよ。

特徴;伝奇ファンタジーとして読みたい。

この作品の特徴を紹介します。

  • ファンタジー・伝奇小説
  • 西洋の歴史人物も登場
  • 日本の陰陽師と九尾の狐の対決
  • アイヌ人の歴史にも焦点
  • 3つのストーリーが同時進行
  • ゾンビや狼男も登場
  • とんでもない展開

歴史上の伝説やオカルトが入った伝奇小説ではありますが、アイヌの人々への記述はフィクションとは思えないようなリアリティがあります。

富樫作品の多くにいえることですが、時代小説であっても文体が現代文なのでわかりやすく、読みやすいのも特徴です。

ただし、箱館三部作の前二冊をすでに読んでいる人は、世界観がちょっと違うと感じるはず。
別物と考えて読み始めましょう。(多少、前作とリンクしている場面もあります)
オカルトとアイヌ人の物語として読み進めるのが正解かもしれませんね。

私としては、平和で慈愛があって、自然を畏敬するアイヌの人々へもスポットを当ててくれているので、興味深く読むことがデキました。

西洋と日本の伝奇の対決がみどころ

【神威の矢】では、3つのストーリーが同時進行していきます。

  1. アイヌ人の男と許嫁(いいなずけ)の話
  2. 安房の漁師の息子と幼馴染(おさななじみ)の話
  3. 西洋怪物&殺生石と陰陽師・安倍泰成の話

戊辰戦争における箱館戦争を背景としていて、もちろん土方歳三も登場します。

『神威の矢』のみどころは、これらのストーリーがどこで合流して、どんな結末を迎えるのかということ。

その中で土方歳三はどんな役割をして、活躍をするのか?ってところが本作のみどころです。

西洋と日本のオカルトが合体して、さらに対決するスケールの大きいこの小説。

著者の富樫倫太郎は、多くの要素を含めてひとつのストーリー展開にする手腕が秀でている作家さん。

歴史・時代小説好きの人はファンタジーを嫌う人も多いかもしれませんが、大きなスケールで描かれたこの作品はぜひ読んでみてほしいですね。

感想;知的好奇心をくすぐってくる作品

富樫倫太郎の箱館三部作のなかで『神威の矢』を読んだのは最後でした。

前ふたつの作品のような感じで進むのかと思っていたので、始めのうちは「あれ?」という気持ちで読んでいました。

ですが、読んでいるうちに意外とハマります。

伝説や伝奇、さらには2000年も前の人物まで出てきてビックリ。
どうなるのかと思って読み進められました。

私は何年か前に栃木県の那須にある「殺生石」を見に行ったことがあります。

そのときに九尾の狐と安倍泰成についての伝説を知っていたので、この作品にも興味を持つことができました。

この作品には、まだ私も詳しくない世界の人物や伝奇話も登場します。
『神威の矢』は世界の歴史にも興味をもつきっかけにもなりました。

本作は、小説『土方歳三』の外伝的作品。
もちろん土方歳三は活躍します。

土方歳三ファンでもある私は非常に満足のいく作品でもあります。

読書って、こうやっていろいろな分野に興味が広がっていくのが楽しいですよね。

最後に。

実在する「殺生石」(せっしょうせき)。
日本にはいくつかあるのが知られていますが、そのひとつが那須にあるもの。

付近から火山性のガスが発生していて、近くの生物たちが命を落とすことから魔力があるといわれてきました。

実はその那須の殺生石が2022年3月、真っ二つに割れているのが見つかったのです。
この殺生石は安倍泰成が九尾の狐を封じ込めているといわれているもの。

もしかして九尾の狐が復活してしまったのでは……な~んていう噂にもなっているんです。
あなたも勇気があったら見に行ってみてくださいね。

土方歳三が活躍する富樫倫太郎の土方シリーズ。
読む順番は自由ですが、一緒に読んでみるとおもしろさ倍増です。
ぜひ読んでみることをおすすめしますよ。

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