鬼の副長の内面がよく分かる小説。広瀬仁紀著『土方歳三散華』

こんにちは。山内健輔です。

今も昔も人気の新選組。
新選組は幕末の京都で、尊王攘夷派の志士たちに恐れられるほど活躍した組織です。

新選組を扱った小説や映像作品は数多くあります。
私も新選組作品は数多く楽しんでいます。

その中でも私が好きな作品のひとつでもある『土方歳三散華』
歳三の生涯がストーリーです。
この作品では、他ではちょっと触れられるぐらいのエピソードを歳三の心情を中心に描いています。

冷徹でありながらも、やさしさも感じられる采配。
仲間に対する想い。
最後まで自分の主義を貫く姿。

そんなかっこいい土方歳三を見ることができます。
新選組ファン、歳三ファンはぜひ一度読んでみてほしい小説ですよ。

今回もネタバレなしで紹介します。

『土方歳三散華』広瀬仁紀 著
2001年3月(小学館文庫)

鬼と呼ばれた副長の内面がよく分かる小説。広瀬仁紀著『土方歳三散華』

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歳三ファンは読んでおきたい!

こんな人におすすめ!
土方歳三ファン
新選組ファン
◯土方歳三の生涯を簡単に追いたい人

池田屋事変(新選組が尊攘過激派の会合に討ち入った事件)から後の土方歳三の心情にフォーカスした作品です。

歳三の行動を時系列にすべて追った物語ではありませんが、さまざまな出来事における心情をうまく描いています。

もともと土方歳三が好きな人はもちろん、土方歳三について知りたい、新選組について詳しくなりたい、そんな人も読んでほしい作品でしょう。

今回の『土方歳三散華』では、歳三に関するエピソードが中心ですが、著者の広瀬仁紀さんの著作である『新選組風雲録』シリーズでは、よりストーリー性があっておもしろく読めます。

『土方歳三散華』を気に入った人は、続けて読むともっと楽しむこともできますよ。

土方の内面をうまく描く。

この小説の特徴です。

  • 土方歳三の動きをてっとり早く知れる
  • 土方歳三の内面を中心に描いた小説
  • 飾りの少ない文章で読みやすい
  • 歳三の生涯の後半部分が中心(池田屋事変後)
  • 山崎烝斎藤一との関わり
  • 沖田総司とのかけ合い
  • 全体的な流れはざっくり、細かいエピソードはしっかり

池田屋事変の直後からストーリーは始まります。
新選組の歩みというよりは、「土方歳三の内面」が主に書き下ろされている印象です。

とくに印象深いのは、山崎烝や斎藤一といった歳三と縁が深いながらも共に行動することの少なかった隊士とのやりとり。
歳三の心情や人柄をうまく表現されているエピソードでした。

また、沖田総司とのかけ合い。
慣れ親しんだ間柄だからこそできる二人の会話は、お互いの深い絆を感じさせるものです。

全体的な流れは、おおまかに記されるぐらいですが、歳三の心情がうまく表現できるエピソードは多めに行数を使って表現されていました。

内面は人情味あふれる漢

「鬼」と呼ばれるほど冷徹な決断を下す副長・土方歳三の新選組に対する思い。
仲間として認めた者たちへの想い。
組織のために自分の我を捨てた姿。

土方歳三の生きざまを描いた小説。
甲府、流山、会津や函館での戦いの様子は少なめですが、土方歳三が最後の戦いに向かっていくなかでも独り諦めない。

広瀬仁紀の描く土方歳三像は、人情味あふれる「粋」(いき)な感じのする漢。
ずっと読んでいたいと思わせる作品でした。

そして、注目してほしいのは「池田屋事変」を起こした歳三の思惑。
内容は本文で読んでほしいので明かせませんが、『土方歳三散華』のみどころのひとつです。

強くてやさしくてかっこいい歳三

組織を強くするために自分が汚れ役を引き受ける、隊士たちに弱みを見せない。

現代での組織経営にも通じるような自己犠牲
確かに、勉強にはなるなぁとは思いつつも、わかってくれる人がいなかったらキツいよなぁと思う私。

でも、小説の中の歳三には、もっともわかってくれる盟友がいました。
沖田総司です。

辛い役を引き受けていることがわかってくれる人がいるだけで、歳三は強くいられたのでしょう。
また、終盤に出てくるある女性の存在も歳三、読者ともに癒やしてくれる存在でした。

『土方歳三散華』では、強くてかっこよくてやさしい、歳三の内面がみられます。

最後に。

広瀬仁紀さんの作品の中に『新選組風雲録』というシリーズがあります。
主役は沢忠助という人物ですが、土方歳三をそばで支える役割です。

この『土方歳三散華』にも通じる歳三像が描かれているので、ぜひ一緒に読みたい作品です。

さらに『沖田総司恋唄』は、題名通り沖田総司が主役の作品。
こちらも続けて読んでほしいですね。

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