こんにちは。山内健輔です。
柴田哲孝の小説『クラッシュマン』は、日本で行われた先進国首脳会議(サミット)の警備を題材にしたエンターテイメント小説です。
2015年は世界中で多発的に無差別テロ事件が起きた年。
とくにパリで発生した同時多発テロは犠牲者を多く出しました。
2016年に三重県賢島で開催された伊勢志摩サミットは、緊迫した世界情勢のなかでの警備がクローズアップされました。
小説『クラッシュマン』が単行本で出版されたのが2016年11月。
一方、伊勢志摩サミットが開催されたのが2016年5月。
作者の柴田哲孝さんは、ほとんど同時進行でこの小説を書き上げていたのです。
なので、開催時期が迫ってくる臨場感と問題が山積している緊迫感がとりわけ感じられる物語になっています。
「どうなることか」と一気読みしてしまう「ハラハラ感」がやみつきになりそうな小説。
ネタバレなしで紹介していきましょう。
2016年5月(単行本) 2018年8月(文庫本)
『クラッシュマン』柴田哲孝。治安警備の問題をあぶり出したストーリー
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確認してから購入することをおすすめします。
前作とは違うテーマで飽きない!
◯デッドエンドシリーズのファン
◯柴田哲孝の小説が好き
◯公安や警備の警察小説が読みたい
◯一気読みできるエンターテイメント小説を探している
本作は、『デッドエンド』にも登場する田臥警部が主人公として登場。
今回はデッドエンド事件のその後、という始まり方です。
前回の主役だった笠原や娘の萌子も登場します。
とはいっても、独立した話になっているので単独でも読むことができるのも嬉しいポイント。
また、作者の柴田哲孝ファンにとっても、お馴染み万能型の主人公なので今回の小説も楽しく読めるはずです。
今回のテーマはちょっと重めの世界情勢と日本の警備体制。
警察小説というと、どうしても「刑事モノ」を読む機会が多いなか、『クラッシュマン』においては、公安と警備の視点から事件をみられるのも貴重です。
現実にあった先進国首脳会議(サミット)という重めのテーマが選ばれてはいますが、単純に「エンターテイメント」として楽しんでもかまいません。
作品の評価は分かれていますが、私のような柴田哲孝ファンにとっては、おもしろく一気読みできる小説でしたよ。
デッドエンドシリーズの紹介記事です!
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2016年伊勢志摩サミットとリンク?!
さて、この本の特徴を挙げます。
- 主題は2016年伊勢志摩サミットと日本政府の警備
- テロリストと警備側の水面下での闘い
- 物語と現実が並行して進行していたので臨場感とリアリティがある
- 『デッドエンド』の主人公も登場(脇役)
- 緊張感あふれる
- 世界でおきた多発テロと空爆での犠牲を対比
- シリーズものだが単独でも読める
- ノンフィクションのように描かれたフィクション
2016年現実に開催された「伊勢志摩サミット」を舞台とした小説です。
当時、前年から世界中で起きたテロ事件と欧米諸国による空爆が頻発。
報復と復讐の連鎖によって、国際情勢が緊迫した状況でした。
そんな中で日本も欧米諸国へ協力を約束した直後に開催される首脳会議。
その後、米国のオバマ大統領は広島へ訪問を表明することになります。
東京発博多行きの“のぞみ167号”の車内ごみ箱でTNT爆弾が発見された。さらには、イスラム国の対日本専門のテロリスト“クラッシュマン”が入国したという情報がICPOのリヨン事務総局よりもたらされる。警察庁警備局公安課特別捜査室“サクラ”に所属する田臥は、深く静かに捜査を開始する。迫真のタイムリミット・サスペンス
今回の主人公は、前作『デッドエンド』でも活躍した田臥警部。
前作の主人公親子(笠原武大・萌子)は今度は脇役として登場します。
警備側・犯人側、双方の視点からストーリーが進んでいって、ドキドキのサスペンスエンターテイメントな仕上がりです。
シリーズではありますが、『クラッシュマン』は独立した物語として読み進められるので、初めて読む人でも安心ですよ。
「シリーズ全部を読みたい!」という人は、『デッドエンド』から読み始めることをおすすめします。
(2作目『クラッシュマン』で多少ネタバレ要素が生じてしまうため)
紹介記事⇒小説『デッドエンド』(柴田哲孝)はエンターテイメント色濃厚な作品
日本の警備に対する問題を提起
作者の柴田哲孝さん作品は、さまざまな出来事を「黒幕の陰謀」といったように捉えて物語化するのが特徴です。
みどころは、今回の「伊勢志摩サミット」をどう描くのかってところ。
『クラッシュマン』では2015年~2016年の国際情勢を踏まえて創作を合わせたストーリーです。
国の首長が移動するだけで、どれだけの人とカネが必要になるのか。
どれだけの人が警備に頭を悩ませるのか。
今までほとんど気にせずにニュースを見るだけだった私たちには、想像もできなかったことです。
しかも、相手は「見えない敵」。
起きるかどうかわからないことを想定して、対策を行う警備の難しさ。
あまり「警備」についての小説を読む機会のなかった私には、新鮮に読むことができました。
さらに、作者は踏み込んでいます。
警備態勢への不備についても、前作の主人公親子の口を借りる形で指摘しています。
『クラッシュマン』では、警備側、犯人側両方の視点からストーリーが展開します。
警備とテロ対策だけでなく、イスラム社会の女性問題や人間の命の重さなどについても問題視している点でも深く考えさせられました。
前作『デッドエンド』では、スピーディーかつハードなアクションもみどころでしたが、今回は犯人との頭脳戦が繰り広げられます。
社会問題を教えられるエンターテイメント
本当にこのような事件があったのかと錯覚してしまうような臨場感があります。
当時、「アメリカ大統領が広島を訪問」というニュース。
何も知らなかった私は心温まる行動だと思いこんでいました。
でも、この本を読むと、裏に日本政府とのなんらかの密約があったのではないかと勘ぐる気持ちも出てきてしまいます。
国のトップが「どこで何をした」と報じられるだけですが、その背景で多くの人々が警備・準備に命と生活を懸けていることにも気づくことができました。
物語は最後まで行きを切らせない展開ばかりですが、自爆覚悟のテロを防ぐには相当な苦労が必要だということが分かります。
ラストシーンは何気にかっこよく描かれていますが、本当の黒幕はどこにいるのか謎を残しているのも不気味でした。
続編が書かれるのかどうかはわかりませんが、続きを読んでみたい気持ちになります。
国際関係・政治・宗教・平和・命……、いろいろなことを問題提起しながら描くエンターテイメントとしておもしろく読むことができましたよ。
いちばん印象に残ったのは、「テロで失われた命も欧米諸国の空爆で犠牲になった命も同じ価値がある」と言った捜査員の話でした。
最後に。
柴田哲孝さんの作品は、シリーズものが多いですが、毎回違ったテーマを扱ってストーリーにしていくものが多いです。
それだけ見識が広い作家さんといえるでしょう。
デッドエンドシリーズ(双葉社)
(2024年現在5冊出版)
- 『デッドエンド』2014年
- 『クラッシュマン』2016年
- 『リベンジ』2018年
- 『ミッドナイト』2020年
- 『ブレイクスルー』2022年
どの作品もおもしろいので、ぜひ読んでみてくださいね。
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